MAINTENANCE

SpeedHunters掲載記事の日本語訳です。

Fenice 105 : フォルムと機能性の究極形態-特別版

By Ron Celestine
2022年2月7日

目次
【第一章】プロジェクト 
【第二章】逸脱性
【第三章】オートサロンを越えて 
【おまけ】画像庫

「共感深いもの」や「モチベーションを持たせてくれるもの」、「少し風変わりなこと」との出会いこそスピードハンターズで働く中で得られてやりがいのある特権かもしれない。

共感深いものやモチベーションに関しては理解に硬くないだろう。これらの出来事は自身が持つ課題に立ち向かう熱意を与えてくれたり、新しいことにチャレンジするための元気を与えてくれるものだ。しかし1993年製のランチアデルタインテグラーレ程の究極個体の様なものに出会うと、どの分類に落とし込めるものか少し悩んでしまう。

【第一章】プロジェクト

2019年に幕張メッセで開催された東京オートサロンで初めてFenice105と出会った。思い返せばそのランチアのオーナー畑野自動車の畑野マサトはホームサーキット(ヒーローしのいサーキット)で最速になり、更にはランチアにとって同じくイタリア車でありながら異風のライバルであるフェラーリやランボルギーニを脅かすことができるという最終目標のもと全てを注ぎ込んでいたように見えた。

彼はデルタに関して本当にありとあらゆるどんなことも試してきた。それがマサトのやり方であり、
このストーリーをより面白いものにしたのである。以下、私なりの説明をさせていただく…


【第二章】逸脱性

デルタに関して、マサトの熱意は尋常ではない。彼のデルタオーナー歴は15年以上で、この間さまざまなセットアップを試しながら究極のゴールを描き起こし続けてきた。

ある日、畑野自動車に顧客の一人である松本正志氏が何か新しく仕入れた車がないか立ち寄ったことがあった。彼はデザイナーでありイタリア屈指のカーデザイン会社とも長く働いてきた経歴を持つ。ミラノのデザイン高等職業訓練学校で取り組んだ卒業論文では、ランボルギーニのコンセプトについて研究している。

そんな興味深い経歴を持つマサシに対し、マサトは自身のデルタプロジェクトついていくつかの簡単なスケッチを見せながら話を持ちかけたのであった。

そのプロジェクトに大いにそそられ、マサシは自身の専門知識を活かせること、そしていくつかのスケッチを差し出した。

コンセプトはランチアのガッチリ感とボリュームを加え(両サイドの拡張により105mmボリュームを加える。プロジェクト名の105はこれに由来する)ながらも完全にプロポーションを失うことはさせない。マサトはあくまでもジョルジェット・ジウジアーロのオリジナルデザインに忠実であり続けたかったのである。

このビジョンを具現化するためには、専門のモデラーの力も必要だった。SANO DESIGNの佐野氏の出番となった。

佐野は起業以前、日本でランチアのレプリカを作っていたアタカ工業や、光岡自動車での勤務歴を持っており、マサシともかつていくつかのプロジェクトで仕事を共にしていたことがあった。

マサシも当時知らなかったことだが、実は佐野は2018年の東京オートサロンのドレスアップカー部門で最優秀賞を受賞した。つまり2019年の東京オートサロンでのフリー出展権を持っていたということになるのだが、当時まだ出展させる車がなかった。マサトのランチアは彼にとって完璧な候補車となる。こうして遂にプロジェクトは動き始めるのであった。

【最終章】東京オートサロン出展を越えて

こうしてFenice105には完成期限が設けられたわけだが、マサトにとって東京オートサロンへの出展が彼の最終目標ではない。彼の視線の先はどんな時も変わらず。それ故にFeniceにはオートサロンで一般的に見られる様なものたちを越えたこだわりであふれているのだ。

つまりマサシが作り出したデザインは彼の持てる全てが注ぎ込まれていながらも、魅力的な出立ちを維持したまましっかり必要な機能性も持たされているのだ。

重ねて言おう、本当にデザイン全てに機能性が持たされている意味があるものなのだ。例えばリアフェンダーのストライプは、飛び石から塗装を守るために貼られている。そしてこれらストライプの角度はリアウィングの脇のストライプと同じようにデザインされている。

これはほんの一部に過ぎない。この目を引くフォームと機能性の完璧なバランスへのこだわりは各所で見受けられる。車体に取り付けられた黒い部分は全てカーボン製であり、気流が好都合な方向へと流れるよう様々な角度から計算と分析がされて作られた。ちなみにマサトはこのような重要な課題に精通している工業分野の専門家とも交友があった。

通気口とエアロフリックは空気の流れを作り出すためだけではなく、エンジンの一部が覗けることからも伺える様に排熱の機能も果たしている。

スワンネックのGTウィングはあらゆる検証を通して、ブレードの角度は-5度から+17度まで調節できる仕様で、最適状況において260km/hで最大1,100kg(単体理論値)のダウンフォースを生み出すことが可能だ。

ウィングはリアタイヤにダウンフォースを加えるためだけにあるのではなく、「強さ」を持たせる役割も果たしている。

しかし初期の試行錯誤の中では、効果的な側面こそ持っているが少しばかり重みがあることが難点だった。東京オートサロンで初めて見た時の仕様では、ウィングとフロントバンパーのセットで約40kgもあり改善の余地を残していた。そこでウィングとフロントバンパーの減量を試みるべく、童夢で働く友人の出番となった。

ライトウェイトでありつつウィングが1,000kg以上のダウンフォースを出し続けるという機能を低下させないように童夢は特別なレイヤーで構成したドライカーボンを作った。さらにフロントバンパーを保護し、より剛性を高めるためにケブラー繊維(アラミド繊維)を裏面に織り込んだ。

こうしてエアロに関しては申し分なくなったので、メカニック面を担当する設計班の人員も集められた。 下を覗いてみると(あるいはいくつかの通気口からも覗くことが可能だが)新設計されたジェラルミン削り出しの サスペンション(全てのジオメトリーが調整可能)に置き換えられている。

2019年東京オートサロンのスポットライトとしてDinoが撮った写真に非常に似ている光景が、ベンチフードの下に残っている。いくつかの変更はなされたものの見せ所がエンジンであることに変わりはない。フルカウンタークランクシャフトはOS技研製のピストンとロッドに取り付けられ、 排気量も2.0Lから2.3Lに増量された。また、ブーストアップとエンジンチューンをするべくMoTeC84が搭載され、結果として約600hpを出すことが可能となった。

さらに知人のおかげでヨコハマアドバンA050タイヤにワイドなENKEIのNT03RRホイールが当て込まれ、これによりグリップ力のアップが可能となった。

内装に関しても外装と同様フォームと機能性のバランスが重視された。快適さに関してはほとんど取り除かれ、その代わりに軽量化のためカーボンが使われた。一方でダッシュボードは残されていたりする。

※この日はエアロダイナミクスの検証とエンジン性能の確認を行なっており、通常以上に車内が少しごちゃごちゃしていることを補記しておく。

カスタムされたロールケージの上部は車内から溶接することができなかったため、ルーフが切断され、代わりにその後カーボン製にアップグレードされたものが取り付けられた。

オリジナルダッシュボードを取り入れながら、チームはMoTeCC1212 LCD ディスプレイをうまい具合に統合させることに成功した。

そしてマサシはGroup A EvoとGroup A 16Vの計器が交互に表示されるようにディスプレイをカスタムさせた。さらに彼は、レブリミットを越えたら”Abarth"の表示が出てくる仕掛けなど、プログラム内にちょっとしたからくりも残していたりする。何より詳細へのこだわりが重要だからである。

他にもアルミ合金で一つ一つ加工されたブラックアウトラジエーターグリルなど、ひょっとしたら誰もその存在に気づかないかもしれない各所の細かなこだわりについて何時間もかけて話すことだってできるだろう。

しかしながらこの記事ではあくまで脱線し過ぎない内容にとどめよう。いずれにしてもこのプロジェクトが熱意に満ちていることは伝わっただろう。マサトのとあるビジョンから始まり、それが様々な友人や協力者たちの中で具現化し続けているのだ。

なんでも完全に自己完結でやってみることがいいという考えもあるが、それはどうだろうかと思ってしまう。例え友人がその分野の専門でなかったとしても、あなたの構想を意外な視点で捉えて助けてくれるかもしれない。逆もまた然りだ。

Fenice105プロジェクトは、チームワークが夢を具現化させた"Team work makes for the dream work"のまさにその一例だろう。

「ところでロン、サーキットで走らせたらどんな感じだったの?」って?いい質問だね、こちらをお楽しみください。

【 おまけ】画像庫